小学校低学年の時に転校して行った幼馴染のIに、実に10年以上ぶりに会った。
街中で偶然声をかけられた訳だが、この広い都会の中で10年会ってなかった人間に遭遇するなんて奇跡と言っても良いかもしれない。
−近くのファミレスに入り、昔話に花を咲かす。
お互いの空白の時を埋める、楽しい時間。
だが、悪戯な神様は、運命の歯車を回し始めていた−
ふとIがこんな事を言い出した。
「こういう事って重なるものだなー。俺こないだもSに会ったばっかりだよ。」
その一言が、俺の時を止めた。
目の前をぐるぐると回るIの言葉。
Sに、会った。
肺は呼吸を忘れ、口は本来の役割を忘れ、軽く開いたまま。
それとは裏腹に心臓は早鐘のように鳴り響き、血流と共にIの言葉を全身に駆け巡らせる。
苦しい。
次第に目の前の光景が遠ざかり、俺の意識は過去の記憶へと懐古していく。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
俺が小学校1年になった時。
Sと俺とIとFの4人はすぐに仲良くなった。
Sと俺は保育園から仲が良く、IとFは親の仕事が一緒で、同じ寮に入学と同時に越してきた二組の家族の子供。
俺とIが一緒に遊ぶようになり、全員の家が近かった事もあってか気が付けば4人一緒に居る事が当たり前になった。
いつしか俺はSに淡い恋心を抱いていた。
思えば、あれが初恋というものだったのだろう。
俺とS、IとFが手をつないで4人で下校していたほほえましい、幸せな記憶。
だが、小学校2年の夏、Sは転校した。
俺は何も言えなかった。
励ましの言葉も、自分の内なる感情すらも、何も言えず。
ただ、泣きじゃくり、走り出すトラックを見つめていた。
その翌年にIとFが、そして4年生の終わりに俺が、それぞれ別々の地へと別れて行った。
そして、それっきり。
俺は仲良し4人組の誰とも会うこと無く順調に進学し、大学生となった。
もう会う事は無いだろうと思っていた。
だが、故郷から遠く離れた都会の地で俺とIは再会し、そしてSに会ったと言う。
会いたい。あって話がしたい。
かつてのような感情はもう抱けない。もう皆成人式も済ませてしまった1人の大人だ。
だけど。
俺は今でも、女性の中に彼女の面影を求めてしまう。
彼女へ伝えられぬ思いは、トラウマとなって俺のココロを縛り付けているとでも言うのか。
会って話をして、10年という長い時間を埋めれば、この鎖は解けるのか?−
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「おい、大丈夫かよ、どうした?」
Iの言葉が、俺の意識を現実へと呼び戻した。
「ああ、大丈夫だ。それより…
Sは今、どこに居るんだ?いつ会ったんだ?」
気付けば、身を乗り出していた。
仙台。
確かにIはそう言った。
駅へと走り、新幹線へと飛び乗る。
IはSに連絡を取ってくれた。
改札口で、待っていてくれると。
会ったらまず何を言おうか?
何を話せばいいのか?
そればかり考えているうちに、新幹線は仙台駅のホームへと滑り込んだ。
階段を駆け降り、改札口へと走る。
改札口の正面に出た時、1人の女性が視界に飛び込んだ。
彼女の後姿は、あの頃と変わっていなかった。
背中まで伸ばした、綺麗で艶の有る黒髪に、強烈に意識が引き込まれる。
そうだ。俺は伝えなければいけない事がある。
言おう。かつて若さゆえに伝えられなかった言葉。
急いで改札口を抜け、振り返るかつて恋心を抱いていた者の名を叫び、手を伸ばし−
夢は、そこで覚めた。
伸ばした手は虚空を掴み、目の前に飛び込んで来るのは見慣れたヤニで黄ばんだ天井。
外はまだ薄暗く、空は夜と朝の境目を描き出していた。
−ははっ、そうだよな。−
ふと、自分が汗だくな事に気付く。
果たして俺が見た夢は自己の隠された願望なのか、正夢なのか、それとも悪夢か。
それにしても。
「もう、顔も覚えていねえってのに」
本当に俺は彼女の幻影を追い求めているのか。
報われなかった初恋が、形を変え俺を蝕んでいるとでも?
考えるのを辞め、ベットに体を預ける。
「寝なおすか」
もう、全ては昔の事。
彼女らの存在は過去の記憶。
俺が今生きているのは、今この瞬間だ。
思い出は、思い出のままに。
会いたくないと言えば嘘になるだろう。
もしかしたら、本当に未だに断ち切れていないかもしれない思い。
だけど。
夢の中で振り向いた彼女の横顔は、確かに笑っていた。
今は、それでいい。
そんな夢を見て二度寝しちゃったら、授業寝過ごしても仕方ないと思いませんか?←アホ
街中で偶然声をかけられた訳だが、この広い都会の中で10年会ってなかった人間に遭遇するなんて奇跡と言っても良いかもしれない。
−近くのファミレスに入り、昔話に花を咲かす。
お互いの空白の時を埋める、楽しい時間。
だが、悪戯な神様は、運命の歯車を回し始めていた−
ふとIがこんな事を言い出した。
「こういう事って重なるものだなー。俺こないだもSに会ったばっかりだよ。」
その一言が、俺の時を止めた。
目の前をぐるぐると回るIの言葉。
Sに、会った。
肺は呼吸を忘れ、口は本来の役割を忘れ、軽く開いたまま。
それとは裏腹に心臓は早鐘のように鳴り響き、血流と共にIの言葉を全身に駆け巡らせる。
苦しい。
次第に目の前の光景が遠ざかり、俺の意識は過去の記憶へと懐古していく。
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俺が小学校1年になった時。
Sと俺とIとFの4人はすぐに仲良くなった。
Sと俺は保育園から仲が良く、IとFは親の仕事が一緒で、同じ寮に入学と同時に越してきた二組の家族の子供。
俺とIが一緒に遊ぶようになり、全員の家が近かった事もあってか気が付けば4人一緒に居る事が当たり前になった。
いつしか俺はSに淡い恋心を抱いていた。
思えば、あれが初恋というものだったのだろう。
俺とS、IとFが手をつないで4人で下校していたほほえましい、幸せな記憶。
だが、小学校2年の夏、Sは転校した。
俺は何も言えなかった。
励ましの言葉も、自分の内なる感情すらも、何も言えず。
ただ、泣きじゃくり、走り出すトラックを見つめていた。
その翌年にIとFが、そして4年生の終わりに俺が、それぞれ別々の地へと別れて行った。
そして、それっきり。
俺は仲良し4人組の誰とも会うこと無く順調に進学し、大学生となった。
もう会う事は無いだろうと思っていた。
だが、故郷から遠く離れた都会の地で俺とIは再会し、そしてSに会ったと言う。
会いたい。あって話がしたい。
かつてのような感情はもう抱けない。もう皆成人式も済ませてしまった1人の大人だ。
だけど。
俺は今でも、女性の中に彼女の面影を求めてしまう。
彼女へ伝えられぬ思いは、トラウマとなって俺のココロを縛り付けているとでも言うのか。
会って話をして、10年という長い時間を埋めれば、この鎖は解けるのか?−
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「おい、大丈夫かよ、どうした?」
Iの言葉が、俺の意識を現実へと呼び戻した。
「ああ、大丈夫だ。それより…
Sは今、どこに居るんだ?いつ会ったんだ?」
気付けば、身を乗り出していた。
仙台。
確かにIはそう言った。
駅へと走り、新幹線へと飛び乗る。
IはSに連絡を取ってくれた。
改札口で、待っていてくれると。
会ったらまず何を言おうか?
何を話せばいいのか?
そればかり考えているうちに、新幹線は仙台駅のホームへと滑り込んだ。
階段を駆け降り、改札口へと走る。
改札口の正面に出た時、1人の女性が視界に飛び込んだ。
彼女の後姿は、あの頃と変わっていなかった。
背中まで伸ばした、綺麗で艶の有る黒髪に、強烈に意識が引き込まれる。
そうだ。俺は伝えなければいけない事がある。
言おう。かつて若さゆえに伝えられなかった言葉。
急いで改札口を抜け、振り返るかつて恋心を抱いていた者の名を叫び、手を伸ばし−
夢は、そこで覚めた。
伸ばした手は虚空を掴み、目の前に飛び込んで来るのは見慣れたヤニで黄ばんだ天井。
外はまだ薄暗く、空は夜と朝の境目を描き出していた。
−ははっ、そうだよな。−
ふと、自分が汗だくな事に気付く。
果たして俺が見た夢は自己の隠された願望なのか、正夢なのか、それとも悪夢か。
それにしても。
「もう、顔も覚えていねえってのに」
本当に俺は彼女の幻影を追い求めているのか。
報われなかった初恋が、形を変え俺を蝕んでいるとでも?
考えるのを辞め、ベットに体を預ける。
「寝なおすか」
もう、全ては昔の事。
彼女らの存在は過去の記憶。
俺が今生きているのは、今この瞬間だ。
思い出は、思い出のままに。
会いたくないと言えば嘘になるだろう。
もしかしたら、本当に未だに断ち切れていないかもしれない思い。
だけど。
夢の中で振り向いた彼女の横顔は、確かに笑っていた。
今は、それでいい。
そんな夢を見て二度寝しちゃったら、授業寝過ごしても仕方ないと思いませんか?←アホ
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